フードカルチャーの次代をウォッチ!する先端ウェブマガジン

フードカルチャーの次代をウォッチ!する先端ウェブマガジン FLAVO

今週のこの人・この店・このグルメ! フードスマイルガールズの流行発信 郷土料理で世界一周
ショク(食&職)を極める! 仲間と歩む、独立の形 のせ弁 転職の作法





和酒バー「庫裏(くり)」
栗原広信さん

【 2009/03/26 】 

日本酒をメインにしたバーが銀座にある。一杯は60ミリリットルから、値段は200円からという風変わりな和酒バーだ。オーナーは栗原広信さん35歳、昨年末には姉妹店「庫裏新橋店」も開店させた。

和酒バー「庫裏(くり)」
カウンター



和酒バー「庫裏(くり)」
分厚いメニュー



和酒バー「庫裏(くり)」
日本酒は 50 種類以上



店舗データ
庫裏 銀座店
店名:庫裏 銀座店
住所:東京都中央区銀座6-4-15
住所:トニービル 2階
電話:03-3573-8033
月〜木 17時〜翌3時(LO 2時30分)
□□□ 17時〜翌3時30分(LO 3時)
土/祝日 17時〜24時30分(LO 24時)
HP:http://www7a.biglobe.ne.jp/ ~kurisake/


■ 60ミリで売る

日本酒を「60ミリリットル」ずつ売るバーがある。しかも値段は一杯200円からというから、それで経営が成り立つのかと驚かされる。
このスタイルだと、たとえば日本酒を1合(180ミリリットル)ずつ売る店よりも、注文を受ける回数も商品を提供する手間も断然多くなる。従って店の経営を考えれば、いっけん「非効率」に見える。しかし日本酒好きの客にとって少しずついろんなタイプの日本を味わえるスタイルは、ほかでは楽しめない“オンリーワン”の魅力になるのも確か。
店にとっての「効率」か、客にとっての「魅力」か……。
和酒バー「庫裏(くり)」オーナーの栗原広信さんは、なんの躊躇もなく後者を選んだ。それで客が呼べると考えたからだ。ただし、非効率な業態であるゆえ、営業中は一見の客に注文を急かされるようなこともしばしば。しかし、そんなときは決まって「だから安いんですよ」と言葉を返す。
10坪17席の店を1人で切り盛りしているため、確かに客を待たせることもある。しかし人件費をかけない分、酒を安く提供している客にとってのメリットを察して欲しいと考えている。「客を待たせるのか」と考えてしまう思考タイプの人は、そもそもこの店とは合わないのだ。

■ 4割が女性客

銀座、数奇屋橋通りの雑居ビル2階にある「庫裏」は、常時約50種類の日本酒が揃う、日本酒がメインのバー。「日本酒バー」ではなく、「和酒バー」としているのは、「日本酒や焼酎、ビールなど“日本の酒”を置いているバーであって、日本酒だけを置いているわけではないから」(栗原さん)。しかし営業終了後に売った酒の数をパソコンで確認すると、たいていは「日本酒95%で、焼酎とリキュールがそれぞれ2%、あとはビールが1%」という割合なので、「日本酒のバーと言われても、まあしょうがない」(栗原さん)状況ではあるらしい。
客層の中心は30〜40代。なんと4割が女性客だ。「細かく飲ませているこのスタイルが女性にうける理由の1つ。また、日本酒が“淫靡”じゃないのも、大きな理由でしょう」と栗原さんは考える。 長年、日本酒を売ってきたオーナーにとって日本酒は酔ってもいやらしくならない酒。「リキュールや洋酒がメインのバーは口説く雰囲気になるけれど、日本酒がウリの居酒屋で口説かないじゃないですか」と言われると、なんとなくそのような気もしてくる。
客は平均で5、6種類、約2合弱の日本酒を楽しむ。客単価は約3000円。お通しは800円で、全国各地から取り寄せした肴を数種類、提供している。日本酒が好きな客がうれしいのは、レシート。その日飲んだ日本酒の銘柄がきちんと打ち込まれたレシートがおつりとともに渡されるのである。

■ 1週間でメニューの6割が入れ替わる

冷蔵庫などに置かれた約50種の日本酒は、1週間ほどでなんとその約6割に当たる30種類が入れ替わる。入れ替えの際には一升瓶、約1本分を廃棄するという。一升瓶から60ミリリットルずつ注ぐ動作を何度も繰り返していると酒の酸化が進みやすく、痛みやすいのが、その理由だが、ほかにもある。ある日本酒がいつまでもメニューに載っていると、いつも来てもらっている常連のお客さんに“人気のない売れ残りの酒”と思われてしまうからだ。全国各地の酒蔵で丹精込めて作られた日本酒を、人気のない酒と判断されたくないし、常連客にも、常に新しい種類の日本酒を提供していると感じとって欲しい。だからこそ同じ日本酒を2週間以上メニューに並べ続けることはない。

■ 酒屋の次男坊の生き方

栗原さんは赤坂生まれの都会っ子。実家は、祖父の代から酒店を営んでいる。祖父が赤坂で酒屋を営んでいたほか、祖父の妹は麻布十番で酒屋を、また父親は東京都町田市で地酒専門店を開業するなどしていたため、小さいころから酒は身近な存在だった。ただ、将来は兄が酒店を継ぐことがほぼ決まっていたため、小さい頃から頭の中には「自分はどうやってご飯を食べていくか」という問題が存在していた。たどり着いたのは飲食業だった。高校生の時にはすでに日本酒をメインにした現在のバー業態の構想が頭の中にできあがっていたという。
構想を実現させるため、高校、大学時代は、飲食店などでアルバイトなどをしながら包丁の握り方や、店を運営するための数字の管理などを学んだ。大学卒業と同時に、いったん親族が営んでいた港区麻布十番の酒屋で働くことになる。しかし、そこで“兼業”を思いつく。酒屋の向い側にあった物件で店を出し、酒屋業と飲み屋業を始める計画を立てたのである。コンセプトは、「飲み屋さんのための飲み屋」(栗原さん)。飲食店関係者がそこで酒を飲み、仕入れの参考にする“有料試飲場”の進化系だ。
さっそく資金調達のために国民生活金融公庫に出向き、約1500万円の融資を申請すると受理された。親族などから資金を借りることはせず、あくまで自分の力で店を出した。
1998年、そうして25歳の時に25坪のバー「庫裏」を開店させた。「有利な点は物件が祖父の持ち物だったので、家賃があってないようなものだったことと、酒屋業との兼業だったこと」(栗原さん)。「7年で1500万円の借金を返せれば、利益はゼロでもいい。それに酒屋での給料があるから給料分までの赤字は許される。ここを今後のモデルケースにしよう」(栗原さん)と考え、店を開けた。
店を開業させるには、恵まれた環境にあったのは確か。ただ、資金面、業態など、大切な部分はまったく人に頼っていないのが、栗原さんの開業の特徴と言えるだろう。
バーは、18時から22時まで営業した。それ以外の時間も、開けて欲しいという飲食店関係者が来た時は店を開けた。麻布の住宅街で開いた変化球のバーは、狙い通り、飲食店関係者や、価値を求める大人の客の心をつかむと同時に、独特の業態などが多くの雑誌などで紹介されたことで、とたんに注目を集め、借り入れ分を順調に返済していけるほどの売り上げが毎月あがった。

■ 銀座で独立

転機が訪れたのは2005年。酒屋の手伝いをやめて、本格的に飲食業で独立することを決意する。 物件探しは、10数件の不動産店から物件情報を知らせてもらいながら進めた。決めたのは銀座の10坪の物件だった。「麻布は、銀座の“裏町”。だから、銀座で遊んだ後に麻布に来る方が多い。六本木の裏町が西麻布で、渋谷の裏町が青山なのと一緒です。だからここ銀座には麻布のお客さんがいた。それが銀座に出した理由の1つです。それと、一般には銀座は値段が高い街だから、安い値段でやってみたいというのもありました」(栗原さん)。
麻布時代は、飲み屋のための飲み屋がコンセプトだったが、銀座は、一般客相手に変えた。ただ、業態としては、なんら変わっていない。変わったのは、経営する感覚だったという。「以前は、兼業だったので酒屋業の給料がありましたが、今後は入らない。ご飯たべなきゃいけないというプレッシャーはありました。ただ、6年間の蓄積があったので自信もあったし、お客さんもいた。メディアなどに取り上げてもらったことでお店の認知度もありました。ここに出すのはそんなに怖くなかったですね」(栗原さん)。
店を開けると、最初の月から売り上げが想定していた損益分岐点を超えた。

■ 新橋にも新店

08年11月5日、新橋に「庫裏新橋店」が開店した。栗原さんの母親と、銀座で料理人をしていた知人が店を仕切る。銀座店に比べ、新橋店は、4人席などが充実しているほか、食事も楽しめるという特徴がある。
新橋店を開店させたのには理由がある。一店舗だと、酒もつまみも量が少ないので仕入れが難しかった。効率化するにはもう1店あったほうがいいと栗原さんは考えていたのだ。また、銀座には4人席が1つしかないが、従来から3人以上のニーズが多かったのも、理由の1つである。
新橋は銀座と隣合う街だが、新橋店は男性が多いなど明らかに客層が違うという。まだ、開店間もないが、売り上げは「まあまあのところまできている」(栗原さん)という。
「日本酒をちゃんと置いている店は、強いと思いますよ。そういう店をわかってくれるお客さんはちゃんといますから」。
ぶれない店の強さを感じた。


BACK NUMBER
『そば処 出羽香庵』(東京・霞ヶ関) 鏡弘道さん 【 2009/09/03 】
『食愉旬感 HAYASHIYA 〜晴レ時々咲ク〜』(東京・阿佐ヶ谷) 林 和貴さん 【 2009/08/06 】
「下町ブラスリーANZIM」 丸山剛さん 【 2009/05/21 】
「鮨 なが井」永井大輔さん 【 2009/04/16 】
和酒バー「庫裏(くり)」 栗原広信さん 【 2009/03/26 】


転職、一歩、前へ。フードスマイルネットワークが提供する
フード業界専門・人材紹介サービス


「FLAVO」の取材をご希望の方はinfo@f-s-net.co.jpまでご連絡ください。
掲載費は無料です。ただし、コラムとの整合性等がございますので、お受けできない場合がございます。ご了承ください。